「ととのう」という言葉を聞いたことがありますか?
サウナ・水風呂・外気浴を繰り返すことで、心身が一体となり、陶酔するような快感を得られる感覚を、若者たちはそう呼びます。
この“ととのう”が、いまや若年層だけでなく高齢者の間にも静かなブームを呼んでいます。サウナで健康になれる──そんな希望を持つ方も多いことでしょう。
しかし、高齢者にとってサウナは決して万能の健康法ではありません。むしろ使い方を間違えると命に関わるリスクすらあるのです。
サウナの健康効果──本当にいいことずくめ?
フィンランドなどでは古くから「サウナは医者いらず」とも言われるほど、健康との関わりが深く、実際にいくつかの研究でも効果が示されています。
- 血行改善
- ストレス軽減・睡眠の質向上
- 筋肉や関節の緊張緩和
- うつ症状の緩和
そのため、心身の健康を求める高齢者がサウナに惹かれるのも自然なことです。
“ととのう”の裏にあるリスク──ヒートショックと脱水
問題は、若者と同じようなサウナの入り方を、高齢者がそのまま真似してしまうことにあります。
高温のサウナに入った後、いきなり冷水風呂に飛び込む「交代浴」は、確かに“ととのう”快感を生み出しますが、急激な血圧変動を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞を招く危険があります。
特に高齢者は体温調節機能が衰えており、気づかぬうちに脱水や熱中症になることもあります。
実際に起こっている事故
高齢者がサウナ内で倒れたり、水風呂で溺れて搬送されるケースは、毎年報告されています。サウナで亡くなった方の大半が高齢者という統計もあるほどです。
「健康のために」と思っていたサウナが、いつの間にか命を脅かす──これは決して他人事ではありません。
高齢者が安全にサウナを楽しむには
とはいえ、サウナを完全に避ける必要はありません。大切なのは無理せず、自分の体と相談しながら楽しむことです。
以下のような注意点を守れば、安全にサウナの恩恵を受けることができます。
- 水分補給をしっかり行う
- 高温サウナは避け、低温〜中温(60〜80度)を選ぶ
- 10分以上入らない(初回は5〜8分で充分)
- 冷水ではなく、ぬるめのシャワーでクールダウン
- 入浴前後に体調を確認。飲酒や服薬直後は避ける
- 心臓病や高血圧の持病がある人は、医師に相談
赤外線サウナやミストサウナという選択肢
近年では、体への負担が少ない「遠赤外線サウナ」や「スチームサウナ」が高齢者に人気です。
60度前後の設定でゆっくり汗をかけるため、のぼせやショック症状のリスクが低く、心地よい温浴効果が得られます。
“ととのう”は「心の快感」でもある──入浴中の思考法で代替できる
そもそも「ととのう」という状態は、単に体を温めて冷やすという物理的な刺激だけでなく、心がリラックスし、緊張や不安がほぐれていく心理的な快感でもあります。これは、瞑想や呼吸法、自然の中での深呼吸といった行為でも得られるものに似ています。
たとえば、自宅のお風呂でも“ととのい体験”に近づくことは可能です。
ぬるめのお湯にゆっくりと肩まで浸かり、目を閉じて深く呼吸をしてみてください。その際、以下のような「思考の切り替え」を意識すると、よりリラックス感が増します。
- 今日1日の良かったことを3つ思い出す
- 呼吸に意識を向けて、「吸って、吐いて」のリズムを感じる
- お湯に浸かっている体の感覚に意識を集中する(今ここにある感覚)
- 不安や緊張が浮かんできたら、それを「泡が浮かんで消えるように」流していくイメージを持つ
これらはマインドフルネス(気づきの瞑想)と呼ばれるもので、医学的にもリラクゼーション効果やストレス軽減が認められている方法です。
つまり、高温サウナや冷水浴が難しい方でも、自宅での静かな入浴時間と、丁寧な呼吸・思考の整理を通じて、十分に心身を“ととのえる”ことはできるのです。
高齢者の健康法、過信よりバランスを
「サウナで健康になりたい」という気持ちはとても自然です。
しかし、過信は禁物。年齢を重ねるほど、体はゆっくりと丁寧に扱うべきものになります。
サウナはうまく使えば、心と体のメンテナンスに役立つ最高のツールです。だからこそ、“若者と同じ”ではなく“自分に合った使い方”を選ぶことが、真の“ととのい”への近道なのです。
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