タンス預金は本当に安全か?――火災・盗難・相続で起こる落とし穴

箪笥の引き出しに入った数万円の現金 高齢者のお金と制度

「銀行に預けるより家に置いておいたほうが安心」という声は根強く、現金をタンスや金庫に保管する、いわゆる“タンス預金”をしている人も少なくありません。しかし、この方法には意外と知られていないリスクがあります。火災や盗難、そして相続の場面でのトラブルなど、現金が突然失われる可能性は思った以上に高いのです。本記事では、タンス預金の危険性と安全に保管するためのポイントを詳しく解説します。

タンス預金が選ばれる理由

タンス預金を選ぶ人には、次のような理由があります。

  • 銀行金利が低く、預けても利息がほとんどつかない
  • 急に現金が必要になったとき、すぐ使える安心感
  • 金融機関の破綻やシステム障害への不安
  • 口座残高や取引履歴を家族に知られたくない事情

特に高齢者世帯では「銀行に行く手間を省きたい」という理由もあり、まとまった現金を自宅に保管するケースが見られます。しかし、この“安心”は、裏を返せば“無防備”でもあります。

火災による全損リスク

火事は、タンス預金にとって最大級の脅威です。紙幣は耐火金庫に入れても、高温が長時間続くと焦げや変形が生じ、金融機関で交換できなくなる場合があります。

さらに、火災保険で現金が補償される額はごくわずかです。多くの保険会社では、現金や通貨は「特定動産」として扱われ、火災や盗難で消失した場合の補償限度額は5万円程度に制限されています。特約を付けても10万〜30万円が上限というのが一般的で、500万円を保管していても、補償はその範囲内にとどまります。

しかも、保険金を請求するには、焼け残った現金や警察・消防の証明などが必要で、「確かに現金があった」という証明ができなければ補償されません。こうした理由から、火災に遭った場合のタンス預金の損失は、ほぼ全額自己負担になる可能性が高いのです。

実際、ある高齢夫婦は台所火災で自宅が全焼し、押入れの金庫に保管していた500万円が焼け焦げて使えなくなりました。補償額はわずか数万円にとどまり、大きな経済的損失となった事例があります。

盗難の危険性

空き巣や強盗に狙われた場合、現金は真っ先に持ち去られます。金庫に入れていても、重量があっても、台車や仲間を使えば持ち出されてしまいます。高齢者宅は「現金を置いている」という先入観から、下見の対象になりやすく、防犯が甘い家ほど危険です。

特に、地域内で「現金を持っている」という噂が広がると、狙われるリスクは一気に高まります。日頃から現金の話を外部にしないことも重要な防犯策です。

相続でのトラブル

タンス預金は通帳に記録が残らないため、相続時に存在がわからなくなったり、逆に「隠し財産」と疑われて親族間の対立を招くことがあります。相続税の申告においても現金は課税対象であり、申告漏れがあれば加算税や延滞税といったペナルティが課せられます。

例えば、遺品整理中に500万円の現金が見つかった場合、それが故人の遺産であることが明らかなら、相続人は申告義務を負います。もし申告を怠れば、後から税務調査で発覚し、追徴課税の対象になることもあります。

安全に保管するための工夫

リスクを完全に排除することはできませんが、次のような対策で被害を最小限に抑えることは可能です。

  • 耐火・耐水仕様の金庫に保管し、床や壁に固定する
  • 保管場所を複数に分散し、一箇所に全額を置かない
  • 防犯カメラやセンサーライトなどの設備を導入し、侵入を抑止
  • 信頼できる家族に所在を共有し、緊急時や相続時の混乱を防ぐ

また、防犯意識を高めるために、地域の防犯活動や自治会の防犯講習に参加するのも有効です。

タンス預金以外の選択肢

全額を自宅に置くより、安全性の高い資産保管方法も検討しましょう。

  • 一部を銀行の普通預金・定期預金に分散
  • 個人向け国債や安全性の高い金融商品に移す
  • 信託口座や金銭信託を活用して管理

手元に数十万円程度の現金を置きつつ、大半は金融機関や安全な資産に預ける「ハイブリッド管理」が理想です。

まとめ

タンス預金は便利で即時性がありますが、火災・盗難・相続トラブルのリスクは想像以上に高いです。特に高齢者世帯は狙われやすいため、防犯・耐火対策や資産の分散が欠かせません。「安心だから置く」ではなく、「失わずに守るにはどうするか」という視点で保管方法を選びましょう。

※本記事は一般的な情報提供であり、具体的な防犯・保険・相続対応については専門家や自治体にご相談ください。

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