2025年夏、日本はふたつの災厄に直面している。ひとつは気温40度近い猛暑。そして、もうひとつはアメリカ・トランプ大統領から突きつけられた、苛烈な関税通告だ。
石破茂首相は、いままさにこのふたつの荒波に翻弄されている。だが、問題は波の大きさではない。それに備えるべき時間が、確かにあったという事実だ。
■ “予見可能”だったトランプ再登場
2024年の大統領選挙で、トランプ氏が返り咲いた瞬間、世界中の首脳たちは「また関税攻勢が来る」と警戒した。特に日本にとっては、第一次トランプ政権で経験した自動車・鉄鋼への高関税措置が記憶に新しい。
だが、石破政権はトランプ再登場の足音を聞きながら、何もしなかった。正確には、何度もアメリカを訪問した。しかし、それは首相や経済再生担当の赤沢亮正氏による「アポなし訪米」。交渉の場にも着けず、笑顔の写真を撮って帰国するばかりだった。
そして2025年7月。ついに、トランプ政権は日本製の自動車・半導体・機械部品などに25%の関税を課すと発表。発動日は8月1日とされた。
■ 石破首相の“静かな焦り”
発動通告後、石破首相は「対話の扉は開かれている」と発言したが、それは外交交渉というよりも、日本国内へのアピールだった。実際、アメリカ側は既に交渉に応じる姿勢を見せておらず、トランプ大統領は「日米不均衡の是正」を掲げて強硬姿勢を貫いている。
「トランプは予測不能な男」と言い訳する識者もいるが、今回のケースは違う。彼は首尾一貫して、米国の赤字削減と国内製造業の復活を唱えてきた。むしろ、石破政権が予測を外したのではなく、動かなかったのである。
■ 8月1日から日本に何が起こるのか
まず直撃を受けるのは輸出産業だ。トヨタ、ホンダ、日産などの自動車メーカーは、アメリカ市場での価格競争力を一気に失う。多くの製品が割高になり、販売台数の減少は避けられない。
それに伴い、国内の部品メーカーや輸送業者、中小企業にまで波及する。いわば“関税ショックの津波”が、日本列島をゆっくりと、しかし確実に覆い尽くす。
さらに、円安が進行すれば物価高が再燃する。猛暑の中で電気代も上がり、家計の負担は増すばかりだ。つまり、この国の家庭は、経済と気象という二重苦に見舞われるのだ。
■ “模索中”という名の放置
石破政権は今、「アジア諸国と連携を模索する」「交渉のテーブルに着く準備をしている」などと語っている。しかし、それは言い換えれば「まだ何もできていない」ということだ。
政権発足から半年以上、なぜ準備しなかったのか。なぜ外交ルートを築かなかったのか。なぜ企業に対してセーフティネットを先に打たなかったのか。
すべてに共通するのは、“予防”ではなく“対処”に終始したことだ。そして、対処すら遅い。
■ “アジアとの連携”という現実逃避
石破政権は、アメリカとの交渉が進まない現状に対し、「アジア諸国との連携を模索する」と繰り返している。だが、その言葉はどこか空虚に響く。
そもそも日本には、いまアジアで頼れる“確かなパートナー”があるのだろうか。ASEAN主要国は経済面で中国との結びつきを深め、日本との経済協力の優先順位は下がっている。インドとの関係も表面的な安全保障協力にとどまり、韓国との関係修復もなお不安定だ。
そして、中国との関係は、政治的対立と経済的依存が絡み合う複雑な構造だ。日本側が「忖度しない」と強調する一方で、現場の交渉パイプは細る一方であり、信頼関係の土台がないまま“連携”など成立しようがない。
結局のところ、「アジアと連携を模索する」というのは、アメリカと組めず、中国にも対話できず、他国とも距離を縮められないという“外交空白”を覆い隠すための方便にすぎない。
■ 誰がこの国を守るのか
トランプの関税は、日本にだけ襲いかかっているわけではない。韓国やEUにも同様の措置がとられている。だが、他国は素早くアメリカとの交渉や報復措置、他国との連携強化を進めている。
日本だけが“静かに様子を見る”という戦略を取り続けている。いや、戦略ですらない。
8月1日は、単なる通告の実行日ではない。それは、この国が“何もしてこなかったこと”のツケを支払う日だ。
この関税は、ある意味でトランプからの試験問題だ。「日本は、自国の利益を守る交渉力があるか?」という問いに、石破政権はどう答えるのか。
残された時間は、もう多くはない。
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