「在宅介護のほうが費用が抑えられる──」そんな常識が、2025年を前に揺らいでいます。介護保険制度の見直しが進み、“できるだけ自宅で”という方向性が強まる一方で、現実には「見えない出費」「使えない制度」「働けない家族」の三重苦に直面する世帯が少なくありません。
今回は、在宅介護における“お金の不安”に焦点を当て、制度の盲点と生活現場のギャップを掘り下げます。
■「費用は抑えられる」は本当か?
在宅介護は「施設よりも安く済む」と言われてきました。しかし、それはあくまで“介護サービス費用”だけを見た場合の話。実際には、次のような「隠れた出費」が日々積み重なります:
- 介護用ベッドや手すりなど住宅改修費(20万円を超えることも)
- 紙おむつ、吸水パッド、清拭用シートなど日用品代(毎月1~2万円)
- 通院やデイサービスへの交通費
- ケアマネジャーとの連絡、病院同行のための家族の“労働”
特に家族が介護に専念するために仕事を辞めたり、パート勤務に切り替えると、収入減が一気に家計を圧迫します。これがいわゆる「介護離職」の問題です。
■ 2025年改正が引き起こす“負担増”
介護保険制度は2025年に大きく見直されますが、その中でも「利用者負担の増加」が避けられない情勢です。たとえば──
- 自己負担割合「2割」対象が拡大:年金がある程度ある人も負担増に
- 要介護1・2の一部サービスが保険適用外へ:市町村事業に移管される見込み
つまり、制度としては“軽度者は自助努力で”という方向に舵を切っており、「軽い介護は保険で面倒見ない」というメッセージが透けて見えます。
このような動きは、結果的に在宅介護の“初期段階”こそお金がかかるという皮肉な事態を招いています。
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■ 介護に“貯金”は通用しない?
ある程度の預貯金があれば介護に対応できる──というのも、いまや幻想に近い考えです。
実際、介護が数年続けば、月5~10万円の追加出費はすぐに何百万円という規模になります。また、認知症や寝たきりになれば介護度が上がり、訪問看護やショートステイなど、より費用の高いサービスが必要になります。
さらに問題なのが、要介護認定が出ないと制度が使えないこと。つまり、明らかに支援が必要な状態でも、「要支援2」などの軽度と判定されれば、実費でサービスを受けるしかなくなります。
■ “頼れない制度”に代わるものは?
家族の負担を減らすために使える制度やサービスはあるものの、それらは「地域差」「手続きの煩雑さ」「情報の不透明さ」という壁に阻まれています。
- 高額介護サービス費制度:一定の自己負担額を超えた分が後日払い戻される仕組み。ただし、まずは全額を立て替えて支払う必要があり、戻ってくるのは翌月以降です。そのため、家計に余裕がない世帯には大きな負担となります。
- 介護保険外サービス(買物代行・見守りなど)には補助が出ない
- 自治体独自の支援制度:おむつ代助成や訪問理美容補助などがあっても、広報が行き届かず「知られていない」のが実情。ケアマネジャーすら把握していないケースもあり、本来受け取れる支援を逃している家庭も少なくありません。
このように「制度はあっても使いづらい」「申請しないと受けられない」という構造が、“制度の存在”と“生活の安心”との間に大きなギャップを生んでいます。
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■ 制度は“計算式”より“体験”で
制度の細かい説明より、実際に介護を経験した人の「生活感」がいちばん役に立つ──それがこのテーマで感じることです。
誰もが将来、介護を“する側”か“される側”になります。ならば、今のうちに以下のような備えをしておくことが現実的です。
- 親の年金額と資産を一度は確認しておく
- 近隣の介護サービス・相談先をリストアップする
- 家計の中に「介護貯金」を月5000円でも組み入れる
特別な知識より、日々の準備と情報の共有こそが“お金の不安”を和らげます。
■ 「自宅で看取る」は理想か、覚悟か
在宅介護はたしかに温もりのある選択肢です。しかしその裏では、多くの家族が経済的にも精神的にも追い詰められています。2025年の介護保険改正は、その現実にさらに厳しさを加える可能性があります。
だからこそ、「お金の不安」に正面から向き合い、早めに“知っておくこと”が将来の安心につながるのです。
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