退職したら、都会を離れて自然豊かな場所で暮らしたい。そんな夢を抱いたのは、決して少数派ではありません。かつて、軽井沢や熱海、那須といった別荘地に移り住む高齢者が増えた時期がありました。バブル期に建てられたリゾートマンションや別荘が格安で売られ、数百万円で温泉付きの物件を手に入れられる時代があったのです。
「これなら年金でもやっていける」──多くの人がそう考えました。そして、移住直後は本当に夢のような日々が始まります。
■ 夢のような日々の始まり
窓を開ければ、澄んだ空気と小鳥の声。庭先には季節ごとの花が咲き、夜は満天の星空。観光客が帰った後の街は静かで、温泉付きマンションなら毎日が湯治気分です。
都会の喧騒から解放された暮らしに、多くの人が「理想の老後」を実感します。初めのうちは、不便さよりも豊かさが勝っていました。
■ 田舎移住との違い──干渉が少ない自由さ
同じ「都会を離れる」でも、農村部への移住とリゾート地への移住は大きく違います。田舎では、地域コミュニティが濃く、行事参加や近所付き合いが半ば当然とされることが多いのです。これが合えば良いのですが、合わない人には強いストレスになります。
一方、別荘地では住民も移住者や別荘利用者が中心で、干渉はほとんどありません。人間関係は挨拶程度で終わることが多く、「人付き合いの面倒さがない」という点で、田舎移住よりも精神的に楽だと感じる人が多いのです。
■ 徐々に忍び寄る“不便”という現実
しかし、数年が経つと状況は変わってきます。スーパーまで車で20分、バスは1時間に1本。ちょっとした買い物が、ひと仕事になっていきます。
医療機関の少なさも、歳を重ねるごとに問題になります。体調を崩しても診てもらえる病院が遠く、都会では考えられなかった不安を抱えるようになります。運転ができなくなれば、生活は一気に難しくなる。「便利さ」を犠牲にした代償が、じわじわと重くのしかかってくるのです。
■ 管理費と孤独の壁
格安で手に入れたはずのマンションも、月々の管理費や修繕積立金が高くつくことがあります。築年数が古ければなおさらです。年金生活にとっては、大きな負担です。
さらに、周囲は別荘利用者ばかりで、平日は人影もまばら。隣人と会うことも少なく、交流は希薄。「何かあったとき、助けを呼べるのか」という孤独感が、次第に心を占めていきます。
■ そして、手放したくても手放せない
「やっぱり都会に戻ろう」と考えたとき、もう一つの問題が待っています。別荘地の物件は、売却が非常に難しいのです。買い手がつかず、価格はさらに下落。最悪の場合、維持費だけが延々とかかる“負の遺産”となってしまいます。
夢だったリゾート生活は、いつしか重荷へと変わっていく──そんな話を、少なからず耳にします。
■ それでも憧れを捨てないために
では、リゾート移住はやめた方がいいのでしょうか。そうとは限りません。田舎の濃い人間関係が苦手な人にとっては、リゾート地のゆるやかな付き合いは大きな魅力です。成功している人も多くいます。
- 駅近・医療機関近くの物件を選ぶ
- 車がなくても暮らせる場所を探す
- まずは賃貸で「お試し移住」をしてみる
この3つを守れば、リスクは大きく減らせます。
■ 現実を知った上で夢を追う
リゾートセカンドライフは、干渉のない自由を満喫できる一方で、孤独や生活の不便さというリスクを抱えています。しかし、医療や交通の条件が整ったエリアを選び、無理のないコミュニティを確保すれば、理想と現実のバランスを保ちながら暮らすことは十分可能です。
夢を叶えるためには、現実を知り、備えることが大切です。本当に大事なのは、「将来の自分の姿を想像して選ぶこと」。
リゾート移住は、準備を怠らなければ素晴らしい人生のステージになり得ます。夢を追うなら、しっかりと現実を見据えて──それが、この顛末記から得られる教訓です。
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