日本は再び米政策を強化するか?──食料安全保障と農地維持の視点から

曇り空の下に広がる田んぼと奥に佇む作業小屋の風景 気になる世の中

かつて日本人の食卓に欠かせなかった白いご飯。
昭和の高度経済成長期には、一人あたりの年間米消費量は118kgを超えていました。しかし、その後の食生活の多様化と米離れの進行によって、現在では半分以下の50kg前後まで減少しています。
こうした中、1970年代から始まった減反政策によって「米を減らす時代」が長く続きました。

ところが、令和の今、国際情勢の不安定化や輸入依存のリスクから、米の価値が再び見直され始めています。
では、日本は本当に米政策を強化する方向に進むのでしょうか。

昭和〜平成初期:米を減らす時代

米が余るようになったのは、戦後の人口増加と高度経済成長の後。食の欧米化が進み、パンやパスタ、肉料理が日常化すると、米の消費は減少の一途をたどりました。
1970年、政府は「生産調整」、いわゆる減反政策を開始。農家に麦や大豆などへの転作を奨励し、その見返りに交付金を支払う仕組みです。
さらに1995年には米価支持制度が廃止され、市場原理に委ねられることに。農家は収益確保のために経営を多角化し、農業法人化も進展しました。
この時代の米政策は、明らかに「減らす方向」が主流だったのです。

平成後期〜令和初期:米離れと輸入依存の拡大

21世紀に入ると、米消費の減少傾向はさらに鮮明になりました。一方で、小麦やトウモロコシなど飼料・加工原料は輸入依存が8〜9割を占める状態に。
米価は下がり続け、高齢化と後継者不足で米農家の廃業も増加。耕作放棄地が全国で拡大し、水田の維持が難しくなっていきました。

令和の転機:米が見直される要因

  • コロナ禍で輸入穀物の物流が混乱
  • ウクライナ危機で小麦価格が急騰
  • 異常気象による輸入先の収穫減少

これらの出来事で、日本の食料安全保障の脆さが浮き彫りになりました。その中で、自給率ほぼ100%の米は「最後の安全弁」として再評価されます。非常時に国内で安定供給できる数少ない主食だからです。

政府の米政策(事実ベース)

  • 備蓄米の機動的運用
    食糧法に基づき、需給不足や価格急変に備えた備蓄米(概ね100万トン規模)を保有し、市場放出等で機動的に運用。
    ※「増強を決定」という公式発表は現時点ではなし。
  • 加工用米・飼料用米の生産支援
    「需要に応じた米の生産・販売推進に関する要領」等に基づき、主食用米からの転換として加工用米・飼料用米の生産に交付金を交付。
  • 輸出用米の販路拡大支援
    「農林水産物・食品輸出促進法」や「輸出産地づくり推進事業」等により、産地・ブランド米の海外市場開拓を支援。
  • 米粉利用の普及
    「米粉利用拡大プロジェクト」等を通じて、パン・麺・菓子などへの米粉利用を促進し、国産米需要の拡大を図る。
  • 防災備蓄での活用促進
    政府備蓄米の運用に加え、自治体や学校給食等での備蓄・回転備蓄の活用を通知等で促進。国としての一律義務付けはなし。

米増産の課題

ただし、米を増やすにも現実的な課題があります。消費量は減少傾向のまま、過剰生産になれば価格下落は避けられません。
加えて、生産者の高齢化や担い手不足、資材高騰によるコスト増も大きな壁です。水田を守ることと、経営として成り立たせることの両立が問われます。

おわりに

かつては減らす対象だった米が、いまや国の食料安全保障と農地維持の切り札として再び注目されています。とはいえ、昭和のような一律増産ではなく、用途別・戦略型の支援が中心になるでしょう。
米を守ることは、日本の食を守るだけでなく、国土や地域社会を守ることでもあります。これからの米政策は、私たちの食卓だけでなく、日本の未来をも左右する大きなテーマなのです。

気になる世の中
スポンサーリンク
日々をつないで ─ 元行政書士の実感ブログ

コメント