2024年から車検制度に導入された「OBD検査(車載式故障診断装置の点検)」。一見すると「安全」「環境」のための正当な制度に見えますが、その実態をよく見てみると、高齢者や地方の利用者にとっては想像以上に過酷な内容になっています。
OBD検査ってそもそも何?
OBDとは、車の電子制御装置にエラーがあるかどうかを診断する仕組みです。最新の車にはコンピュータが搭載されており、排気ガスの管理やエンジンの制御など、さまざまな機能が電子制御で行われています。
今回導入されたOBD検査では、こうした電子制御系のトラブルを車検の際にチェックし、不具合があると車検に通らないことになります。つまり、目に見えない“中身の故障”まで点検されるわけです。
目立たない“エラー”でも車検NG?
問題は、走行には何の支障もない軽微なエラーであっても、OBDでエラーコードが検出されると「要修理」とされる点です。エラーコードが残っていると、例え車が正常に走っていても車検に通りません。
こうした状況は、特に古い車両を大切に使っている高齢者にとって、非常に厳しい現実です。ちょっとしたセンサーの誤作動、過去のエラー履歴などでも「修理をしなければ通らない」となる可能性があるのです。
地方高齢者への影響は甚大
地方に住む高齢者にとって、車は生活必需品です。買い物、病院、役所への移動──どれをとっても車がなければ立ち行きません。しかし、多くの人が年金生活で車を買い替える余裕はなく、10年以上乗っている車も珍しくありません。
今回のOBD検査によって、その“古いけどまだ使える車”が、ちょっとした電子系エラーのせいで「乗れなくなる」リスクが出てきました。しかも、その修理に数万円、場合によっては数十万円かかることもあります。
対応工場が少ないという現実
都市部ではOBD検査に対応した整備工場が増えてきていますが、地方ではまだまだ体制が整っていない地域もあります。結果として、「遠くの対応工場まで車を持っていく」「代車が無く生活に支障が出る」といった二次的な負担が発生しています。
さらに、整備工場側も専用機器の導入に数十万円の投資が必要で、小規模な整備工場では導入を諦めるところも。これによって、地元の“かかりつけ工場”が淘汰される恐れもあります。
安全より買い替え促進?
この制度の導入には、「古い車に乗るな」というメッセージも透けて見えます。もちろん、新しい車の方が安全性能が高く環境にも優しいのは事実ですが、それを「検査不合格」というかたちで強制するのは、公平とは言えません。
一方で、車の買い替えは経済的負担が大きく、高齢者にとっては現実的ではありません。結果的に、制度の目的である“安全”とは逆に、「無理をして修理費を払う」「違法改造でごまかす」といったケースが出てくる可能性すらあります。
安全を理由に“切り捨てる”制度になっていないか
制度の理念は理解できますが、今の日本社会に本当にフィットしているのでしょうか。高齢化が進み、地方の交通インフラが乏しいなかで、唯一の移動手段である車を「使えなくする」制度になっていないか、問い直すべきです。
エラーコードが出たから即不合格ではなく、「再診断の猶予」「修理が必要なレベルかどうかの判断」など、現実的な運用が求められています。
制度設計を“人の目線”に戻してほしい
デジタル化が進み、車も高度化していますが、その車を使っているのは生身の人間です。安全のための制度が、人の暮らしを壊してしまっては本末転倒です。
高齢者が安心して車に乗り続けられる社会、地方でも移動の自由が守られる社会のために──制度には柔軟性と人間らしい運用が必要なのではないでしょうか。
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