「リサイクル業者ですが、ご不要なものはありませんか?」
そんな電話を受けたことがある人は少なくないでしょう。私の家にもかつてかかってきたことがあります。受話器を取ると、こちらの都合も聞かずにまくしたててくる声。あのときの違和感はいまでも覚えています。
振り返ってみれば、こうした電話が鳴るのは決まって固定電話です。スマホに営業の電話がかかってくることはめったにない。つまり、固定電話こそが“入口”になっているのです。では、今の時代に固定電話は本当に必要なのでしょうか。
固定電話があった時代の安心感
かつて固定電話は、家族や親戚、友人とのつながりを支える存在でした。長年同じ番号を使ってきた人にとっては、番号自体が暮らしの歴史と重なっています。電話帳に名前を載せ、親戚や古い友人から「まだこの番号でつながるのか」と声が届いたときの安心感。固定電話は“家”そのものの象徴でもありました。
さらに、災害時には「固定電話は強い」と信じられてきました。停電や通信障害でもつながることがある。携帯が普及する前、固定電話はライフラインのひとつだったのです。
迷惑電話が鳴り続ける現実
ところが今では、固定電話は迷惑電話の温床になっています。健康食品やリフォーム、不要品の買い取りまで、次から次へと営業の電話が鳴る。名簿業者によって番号が出回り、高齢者は真っ先に狙われやすい状況です。
そして何より忘れてはいけないのが、いわゆるオレオレ詐欺です。息子や孫を名乗る人物からの突然の電話。慌ててしまい、本当に身内だと思い込んで大金を渡してしまったという被害は後を絶ちません。スマホではなく、やはり固定電話にかかってくるケースが圧倒的に多いのです。
一人暮らしだと、突然の電話にとっさに対応してしまいがちです。強引に話を進められ、断りきれずに契約してしまうこともある。「家にある安心感」が、いつしか「リスクの入り口」に変わってしまいました。
携帯電話だけで暮らせる時代
役所も病院も銀行も、今は携帯番号を登録できます。知人や家族とのやりとりも、ほとんどがスマホや携帯に移りました。月に数回しか鳴らない固定電話に、毎月の基本料金を払い続ける意味はあるのか。そんな疑問を持つ人が増えているのも当然でしょう。
「固定電話をなくしたら不便かもしれない」と考える方もいますが、実際には携帯ひとつで十分に暮らせる環境が整っています。むしろ“固定電話があるからこそ”迷惑電話や詐欺電話が鳴り続けるのです。
折り合いをつけるという選択
とはいえ、「完全に解約するのは不安」という気持ちも理解できます。そのときは、工夫して固定電話を残す方法があります。ナンバーディスプレイをつけて相手を確認する。非通知を着信拒否にする。あるいは、受話器を取る前に「この通話は録音されます」と自動で流れる電話機に替える。これだけで迷惑電話や詐欺のリスクはぐっと減ります。
固定電話を完全に手放すか、あるいは残しつつも“守りの工夫”をするか。選択肢は人それぞれです。
暮らしに合った答えを
固定電話は、世代や時代の象徴でもあります。そこに安心感や思い出があるのも確かです。けれど同時に、トラブルの入り口にもなり得ます。
結局のところ、大事なのは「いまの暮らしに合っているかどうか」です。
「親戚からの連絡があるから残す」も正解。
「携帯だけで十分だから解約する」もまた正解。
惰性ではなく、自分の暮らしを見つめ直して決めること。固定電話は、そんな問いかけを静かに投げかけているのかもしれません。
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