友だちはいない。でも孤独じゃない──一人暮らしという選択

老人の一人暮らし 健康と生活

「友だちはいない。でも、孤独じゃないんです」

そう話してくれたのは、近所に住む70代の男性だった。静かに、ゆっくりと話すその人の言葉には、どこか凛とした確かさがあった。

私は現在68歳。週に数日、体を動かすアルバイトをしていて、仕事先では顔なじみの人もいる。気の置けない友人も何人かいて、時には雑談を交わしながら、今のところはさみしさとは無縁の暮らしを送っている。

だからこそ、「一人暮らしで、友だちもいない。でも寂しくない」という彼の言葉に、初めは少し驚いた。

静けさの中にある、充実

彼は、定年退職してからずっと一人暮らしをしているという。家族とは遠く離れて暮らしていて、年に一度会うかどうか。友人付き合いも特になく、誰かに電話をかけることも滅多にない。

「一日中誰とも話さないこともあるよ」と笑って言ったあとで、こんなふうに続けた。

「でも、朝にゆっくりとコーヒーを淹れて、新聞を読みながら窓の外を見るだけで、十分に満たされる。昔の私はこんなふうに生きるなんて想像もしてなかったけど、今の暮らしが一番しっくりくるんです」

人と会っていないからといって、孤独であるとは限らない──その言葉の意味が、少しずつ私の中に入ってきた。

“無理につながらない”という生き方

彼は若い頃、会社勤めをしていたが、人間関係が煩わしく感じることも多かったそうだ。定年後、「もう無理して誰かと付き合うのはやめよう」と思ったという。

「人とつながるって、良い面もあるけれど、エネルギーを使うでしょう? 年を取ると、自分の心地よさを優先するようになる。だから、気が合う人とだけ、ほんの少し関わっていればそれでいい」

その“ほんの少し”の関わりというのが、週に一度行く喫茶店での店主とのあいさつや、図書館での司書さんとの会話だったりするという。

「深い付き合いじゃない。でも、ふとした言葉がうれしいんです」

孤独と一人は違う

彼が語る中で、もっとも印象に残ったのはこんな言葉だった。

「“孤独”って、人といる・いないの問題じゃないと思うんです。誰といても、理解されてないと感じたら孤独だし、一人でも自分のことをちゃんと受け止められていれば、孤独にはならない」

これは私にとって、新鮮な視点だった。私は日々、誰かと関わる生活をしているけれど、それが「孤独じゃない証明」になるとは限らない。彼のように、他人ではなく自分自身と丁寧に向き合っている人には、確かに穏やかな安らぎがあるように見えた。

誰とも比べない、という強さ

「若い頃はね、“友だちがいないのは変だ”と思ってましたよ。でも、だんだん気づくんです。無理して誰かと群れるより、自分らしくいた方が楽だって」

「SNSも見ないし、同窓会も行かない。誰かの人生と自分の人生を比べなくなると、すごく楽になります」

そう語る姿は、老成というよりむしろ“成熟”と呼ぶべきだと思った。自分のペースで、自分の満足を知っている。これは、年齢を重ねたからこそ身につく“生き方の技術”なのかもしれない。

まとめ:一人暮らしにも、こんな幸福がある

私自身はまだ、社会とのつながりの中で日々を楽しんでいる。それはありがたいことだし、これからも大事にしていきたい。

でも、「友だちはいない。でも孤独じゃない」というその人の生き方を聞いて、自分の中の価値観が少し揺れた。

人とつながることも素晴らしいけれど、つながらないことにも意味がある。誰にも合わせず、自分の好きなように暮らす自由。そして、それを「孤独」と感じずに受け入れている強さ。

そういう生き方もまた、老後の“理想”のひとつなのかもしれない。

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