江戸時代、日本人の主な食事といえば、玄米、味噌汁、漬物、時折の魚や野菜──つまり、現代の感覚からすれば「粗食」に分類されるものでした。
ところが、当時の人々、とくに庶民はこの粗食で、現代人には想像もつかないほどの体力を持っていたと言われています。飛脚や籠かき、農民、職人など、日常的に過酷な肉体労働をこなしていた彼らの体は、驚くほど丈夫だったと記録されています。
なぜあのような“つましい”食事で、現代よりもはるかにタフな肉体が育まれたのでしょうか?この記事では、高齢者の健康を見つめ直す視点から、江戸時代の「粗食と強靭さの謎」に迫ります。
栄養価ではなく「質」がカギだった?
江戸時代の食事は、基本的に「一汁一菜」が基本でした。主食は白米ではなく、ビタミンB群やミネラルを豊富に含んだ玄米や雑穀。副食には、大豆製品(味噌・豆腐)、海藻、根菜類など、自然の恵みがバランス良く組み込まれていました。
現代のように高カロリー・高脂質な食事ではありませんが、必要最低限の栄養素を過不足なく摂る「ミニマムで効率の良い」食文化だったとも言えます。
腸内環境が整っていた日本人
玄米や野菜、海藻を主とした食生活は、食物繊維が豊富です。その結果、当時の日本人は腸内環境が非常に良く、免疫力も高かったとされます。
とくに発酵食品(味噌、ぬか漬け、納豆など)を日常的に食べていたため、腸内フローラが豊かで、病気に強い体を維持できたのではないかと言われています。
生活が“強制的に運動”だった
体力維持に不可欠なのが運動ですが、江戸時代には「運動不足」という概念が存在しませんでした。徒歩による移動、農作業や水くみ、掃除や洗濯など、日常の生活自体がすべて「筋トレ」や「有酸素運動」に繋がっていたのです。
また、当時の人々は正座やしゃがみ動作が多く、自然と下半身が鍛えられていたという考察もあります。
ストレスが少なかったという説
現代と違い、SNSもブラック企業も存在しない江戸時代。もちろん飢饉や病気などの苦難はありましたが、「情報過多によるストレス」はありませんでした。
この“メンタルの安定”が、体調を崩しにくく、免疫力を高く保つ要因だったとも言えます。
高齢者にとっての“和の食文化”再評価
高齢になってくると、「粗食」のありがたみが身に沁みてわかるようになります。現代は飽食の時代ですが、その裏で肥満や糖尿病、高血圧といった生活習慣病も増えています。
一方、江戸時代的な食生活──玄米、味噌汁、発酵食品──を意識して取り入れることで、体調が整い、自然と元気になるという高齢者の声も増えています。
無理な制限や運動よりも、昔ながらの「身体に合った食事」を見直すことが、実はもっとも手軽で効果的な健康法かもしれません。
昭和から令和、そして江戸へ?
昔ながらの日本人の食と生活の知恵は、現代人の“疲れた体と心”にこそ必要なのではないか──。そんな思いから、最近では「江戸レトロ食」や「一汁一菜生活」が再び注目されています。
便利さや豊かさが当たり前となった令和の時代だからこそ、質素で整った江戸の暮らしに、学ぶべきヒントがあるのかもしれません。
“不自由”が体を鍛えていた
結局のところ、江戸時代の人々が体力的に優れていたのは、「食の質」「腸の強さ」「強制的な運動」「ストレスの少なさ」という、いくつもの自然なバランスによって成り立っていたのです。
豊かになった現代では、この「自然なバランス」が崩れがちです。だからこそ、今一度、江戸時代の暮らしを振り返り、そこから学び取る価値があるのではないでしょうか。
高齢になってなお、「まだまだ元気でいたい」と願う人にとって、江戸の粗食と生活習慣は、意外にも現代を生き抜くヒントを与えてくれる存在です。
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