高齢者の聞こえを支える「補聴器」。難聴は認知症やうつ、社会的孤立とも深い関係があると言われ、厚生労働省もその対応を重要視しています。
しかし、補聴器の価格は片耳で3万〜20万円と高額で、年金暮らしの高齢者にとって簡単に手が出るものではありません。そんな中、自治体によっては補聴器購入費への助成制度を設けており、「助かる」という声も多く聞かれます。
けれども問題は、その制度が全国一律でないことです。
たとえば東京都葛飾区では、2025年7月から65歳以上の高齢者を対象に、住民税非課税世帯で最大14万4900円、課税世帯でも7万2450円の補助が出る制度が始まりました。これは東京都が実施している高齢者聞こえ支援事業に基づくもので、都内では台東区、品川区、練馬区などほとんどの区市町村で何らかの助成制度が整っています。
ところが、たとえば徳島市では、高齢者向けの補聴器助成はまったく実施されていません。県内でも高齢者向けに補助をしているのは神山町や上板町など一部の自治体にとどまります。
これは「自治体の裁量に任されている」ことが原因です。東京都のように都レベルで補助金を交付している地域では市区町村も連動して制度をつくりやすいのですが、そうでない地域では、自治体が独自に予算を組まない限り制度が生まれません。
しかし実は、こうした制度にはすでに「国からの補助金」が一部ついている場合もあります。たとえば障害者総合支援法による補聴器支給、難聴者支援の政策の中で厚労省も一定の予算措置をとっています。つまり、本来であれば全国で共通の支援がなされてしかるべきなのです。
現時点では約390の自治体(全国の約22%)が何らかの成人補聴器助成制度を設けていますが、逆に言えば8割近くの自治体では助成制度がないままです。
これは明らかに「地域間格差」であり、「住む場所によって健康支援の質が変わる」という深刻な問題でもあります。
補聴器は贅沢品ではありません。社会とつながるための「聞こえ」を保つ、大切な道具です。難聴は一見、命にかかわる病気ではないように見えて、実は生活全体に大きな影響を与えます。だからこそ、本来なら国が一律の支援制度を設けるべきではないでしょうか。
実際、難聴が進行すると周囲との会話を避けがちになり、外出機会の減少、引きこもり、さらには認知症やうつ状態へとつながっていくケースが報告されています。聞こえの不自由さは、生活のあらゆる場面にじわじわと影響し、知らぬ間に「孤立」へと追い込んでしまうのです。
ある高齢の女性は「家族との会話についていけず、テレビも聞き取れない。補聴器を買いたいけど高すぎてあきらめた」と語っていました。彼女の住む自治体では、補聴器への公的助成制度が一切なく、区役所に相談しても「対象外」の一言で終わってしまったそうです。
一方、海外ではどうでしょう。たとえばドイツやスウェーデンでは、医師の処方によって補聴器が保険適用になる仕組みが確立されています。日本のように「市町村ごとのバラバラな裁量」によるのではなく、国が制度として設計し、全国民に公平な支援を提供しています。
今後の日本でも、そうした「聞こえのセーフティネット」を整備する必要があるはずです。たまたま住んでいる地域によって、補聴器が買える人と買えない人がいる。これはまぎれもなく“制度の格差”であり、“福祉の分断”です。
この問題、もっと知られるべきだと思います。そして、多くの人が「自分の住む地域はどうか?」と関心を持ち、必要であれば行政に声を届けていくことが、制度の拡充につながる第一歩となるでしょう。

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