親の相続で最も多いトラブルのひとつが、兄弟姉妹のあいだで起こる争いです。親が築いた財産をどう分けるかという話は、冷静に見れば数字の問題にすぎないかもしれません。けれど、そこには子どもそれぞれの立場や感情、積み重ねてきた思いが絡み合い、しばしば関係が壊れるきっかけになってしまいます。
実際に家庭裁判所で扱われる遺産分割の調停件数は年々増えています。相続の金額が多い少ないに関わらず、兄弟間の不信感やわだかまりが表面化するのです。「自分ばかり損をしているのではないか」「親の面倒を見てきたのは自分だ」──そうした思いが衝突すると、話し合いは一気に険悪になります。
だからこそ大切なのは、親が元気なうちから「将来どうするか」を少しずつ共有しておくことです。相続の話は重くなりがちですが、事前に方向性を話し合っておけば、大きな揉め事に発展するリスクを減らすことができます。
第一歩は、親の意思を明確にしてもらうことです。遺言書があれば、基本的にはその内容に従うことになります。正式な公正証書遺言を用意してもらうのが理想ですが、そこまで進めなくても「親はどう考えているのか」を子どもが知っているだけで状況は違います。エンディングノートに残してもらうのも有効でしょう。
次に、兄弟同士のコミュニケーションです。普段から財産のことを話題にするのは気まずいですが、相続が差し迫ってからでは遅いこともあります。「実家はどうする?」「誰が引き継ぐ?」といった話を、節目ごとに少しずつ取り上げる。それだけでも、いざというときに意見が食い違いにくくなります。
また、相続財産のなかで特に揉めやすいのが不動産です。預金のように分けやすいものと違って、家や土地は物理的に分けられません。だからこそ「実家に誰が住むのか」「売却するのか」を事前に話し合っておくことが重要です。曖昧なまま時間が過ぎると、共有名義のまま管理が難しくなり、結局は全員が負担を背負うことになります。
感情面での配慮も欠かせません。親の介護を担った子と、遠方に住んでいた子とでは、負担の感じ方に差があります。その不公平感が相続の場面で噴き出すことは珍しくありません。「自分だけが犠牲になった」という思いを抱かせないためにも、介護や金銭的なサポートの実態を兄弟で共有しておくことが望ましいのです。
もちろん、家族だけで解決できない場合もあります。そのときは早めに専門家を交えるのも選択肢です。行政書士や弁護士、公証人など、第三者の関与があるだけで話が整理され、感情のぶつかり合いを抑える効果があります。「家族だけでなんとかしよう」と抱え込む必要はありません。
兄弟で揉めないための秘訣は、結局のところ「情報を隠さないこと」と「小さなうちに火種を消すこと」に尽きます。遺産の総額が多くても少なくても、争いの根は不公平感です。財産の中身を知らされていなかったり、決定の場に関われなかったりすると、人は簡単に不満を募らせてしまいます。
親の生前から兄弟が顔を合わせて、少しずつでも未来の話を共有する。それは不謹慎なことではなく、むしろ家族を守るための自然な営みです。相続は「誰がどれだけ受け取るか」という数字の話であると同時に、「家族の関係をどう保つか」という心の話でもあるからです。
親の死後に慌てて話し合うより、生前から少しずつ準備しておくほうがずっと穏やかです。兄弟で揉めないための相続対策とは、結局のところ「親が生きているうちに会話を重ねること」に尽きます。その積み重ねが、家族の未来を守る最良の手段になるのです。
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