「手芸」と聞くと、多くの人は女性の趣味を思い浮かべるのではないでしょうか。裁縫、編み物、キルト──昔から家庭の中で女性が担ってきた印象が強い分、男性が興味を示すと少し意外に思われがちです。私自身もそうですが、年を重ねると新しい趣味に挑戦してみたくなり、そのひとつが手芸でした。男が針や毛糸を持ってちくちくと作業するなんて……と思う方もいるかもしれませんが、実際にやってみるとこれがなかなか奥深いのです。
そもそも歴史をひもとけば、編み物や縫製は決して女性だけのものではありませんでした。ヨーロッパでは中世の修道士が手仕事として編み物をしていましたし、日本でも漁師が自分の漁網を編んだり修繕したりしていました。兵士が遠征中に手袋や靴下を編んだ記録もあります。つまり、手芸は本来、性別を問わない「暮らしの技術」だったのです。
男の手芸の魅力は、何よりも集中できることです。糸を数目ずつ編んでいく、布を少しずつ縫い進める。その繰り返しの中で雑念が消えていきます。まるで瞑想のように、手を動かしながら心が静まっていくのです。シニア世代にとっては、孤独感やストレスを和らげる良い時間にもなります。テレビを見ながら、音楽を聴きながらでもできるので、生活に自然に溶け込みます。
そしてもうひとつ大きな魅力は完成したときの達成感です。自分の手で形をつくり上げる喜びは、若い頃にDIYをしたときの爽快感に似ています。出来上がった小物を家族に見せれば、会話のきっかけにもなります。孫に手作りのマフラーを編んであげる──そんなシーンを想像するだけで、少し心が温まってきませんか。
では何から始めればよいでしょうか。初心者には編み物がおすすめです。毛糸と編み針さえあればすぐに始められ、基礎さえ覚えればマフラーや帽子は意外に簡単につくれます。もう少し大きな作品に挑戦したいならキルトも面白い選択です。古い布を組み合わせて自分だけの模様を作り出す作業は、ちょっとしたデザイン感覚も鍛えられます。裁縫道具を持っていない方は、最近では「初心者キット」が手芸店やネットで手に入るので、それを利用するのも手です。
始めやすさという点では、手芸はほとんどお金がかかりません。毛糸玉ひとつ数百円、編み針も数百円から手に入ります。キルトも、タンスに眠っている古い布を活用できるので、エコな趣味でもあります。大きな作業場もいらず、居間の片隅や自分の机で始められる気軽さも魅力です。
また、健康面での効果も注目されています。指先を細かく動かす作業は脳の活性化につながり、認知症予防の一助になるとも言われます。姿勢を正して集中することで、ちょっとしたリハビリにもなります。「趣味としての楽しみ」と「健康維持」が両立するのは、シニアにとって大きなポイントでしょう。
さらに、今は手芸を通じたコミュニティも広がっています。カルチャーセンターや地域の公民館では、男性歓迎の編み物サークルやキルト教室も開かれています。SNSでは「#男の編み物」「#男性キルター」といったタグで、多くの人が作品を披露しています。仲間ができれば続ける励みにもなり、完成品を褒めてもらえば自己肯定感も高まります。
また、男性ならではの強みを活かせる分野もあります。革細工や帆布を使ったバッグ作りは力仕事の部分もあり、意外に男性が得意とするところです。木工と組み合わせて「縫う」だけでなく「作る」楽しみを広げることもできるでしょう。針と糸から始まった趣味が、やがて幅広いクラフトの世界につながるかもしれません。
もちろん、最初は「男が手芸なんて」と周囲から冷やかされることもあるかもしれません。しかし時代は変わりつつあります。SNSをのぞけば、編み物や刺繍を楽しむ男性が写真を投稿し、世界中から「いいね!」を集めています。そこにあるのは性別の垣根ではなく、「ものづくりを楽しむ心」だけです。
趣味は人生を豊かにするものです。男が手芸を楽しんでもいい。むしろ、手芸は心と手を同時に動かす、理想的なシニアの趣味かもしれません。小さな針や毛糸玉から始まる新しい世界は、きっと想像以上に充実した時間を与えてくれるはずです。
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