天使と天女と乙子狭姫

日々の雑記

解約の箱には一対の天使が羽を休める姿が

レイダース失われたアーク(聖櫃)

インディー・ジョーンズ(インディアナ・ジョーンズ)シリーズの第1作、レイダース失われたアーク(聖櫃)は1981年の映画です。スター・ウォーズが1980年で、レイダースの前年になります。ハン・ソロ役でブレイクした、ハリソン・フォードが主演のインディー・ジョーンズ3部作は、当時待ちかねるように映画館に足を運んだ記憶があります。2008年だかに4作目が作られたのですが、その時には、さすがにハリソン・フォードもお歳だなと思いました。 

映画の中で出てくる「アーク」ですが、「アーク」というのは聖櫃と訳されています。聖櫃はキリスト教・ユダヤ教において使われる、特別な箱を指す言葉であり、他にもいくつかあるようです。映画の中の「アーク」は「契約の箱」といわれるもので、中にはマナの入った壷。モーゼの兄、アロンの杖、そして十戒の刻まれた石板が収められています。マナというのは食べ物のことです。よくゲームに出てきますね。 

今回は「契約の箱」の上に装飾されたケルビムについての話です。「契約の箱」は御神輿の原型という説もあります。現在の御神輿の上には鳳凰が止まっていますね。「契約の箱」はその上部に1対のケルビムが羽を休めた形態で向かい合っています。ネット上に画像は多く存在しますのでご覧下さい。金ぴかのやつです。 

ケルビムは天使と訳されています。実際画像を見ても、天使にしか見えないものが乗っかっているのです。じゃあ、天使は何語でケルビムって言うの?ってなりますね。その疑問をずっと調べもしないで抱えていたのですが、重い腰を上げてケルビムについて調べてみました。

神の使いたる天使

天使というのは神の使いとして、人間と接触するものだそうです。天使についてもいろいろと見解があるようですが、ここでははしょって各宗教の天使を見てみます。仏教にも天使という概念は有るようですが省きます。 

  • キリスト教の天使 主のお使い ラッパを吹くと災いをもたらす
  • イスラム教の天使 ムスリムが信仰すべき六信のひとつ
  • ユダヤ教の天使 やたら巨大 ヘブライ語ではマルアハ

六信とは信じなければならない6つの信仰箇条

  1. 唯一全能の神(アッラーフ)
  2. 天使の存在(マラーイカ)
  3. 啓典(神の啓示、キターブ)
  4. 使徒・預言者(ラスール)
  5. 来世の存在(アーヒラ)
  6. 定命(カダル)

まだケルビムが出てきません。天使がラッパを吹くと、災いがおきるとは初耳です。 

では、語源的にはどうでしょうか。

  • 「伝令」「使いの者」を意味するギリシア語の「アンゲロス」英語の angel
  • 「密使」を意味するペルシア語の「アンガロス」
  • 「神の霊」の意であるサンスクリットの「アンギラス」

やはり違うようです。 

天使にも階級があります。階級を列挙してみます。 

  • 熾天使(してんし)「セラフィム」最上級の天使
  • 智天使(ちてんし)「ケルビム」第2位の天使
  • 座天使(ざてんし)「ソロネ」「スローンズ」第3位の天使
  • 主天使(しゅてんし)「ドミニオンズ」「キュリオテテス」第4位の天使
  • 力天使(りきてんし)「デュナミス」第5位の天使
  • 能天使(のうてんし)「エクスシア」第6位の天使
  • 権天使(けんてんし)「アルヒャイ」「プリンシパリティ」第7位の天使
  • 大天使(だいてんし)第8位の天使

やっと出てきました。ケルビムとは天使階級第2位の天使だったのですね。ウィキペディアを見ると智天使の複数形と書いてあります。複数形ということは「契約の箱」の天使は1対でケルビムというのでしょうか。 

ヘブライ語 cherubの複数形。人面または獣面で翼をもった旧約聖書の超人的存在。神の玉座や聖なる場所を守衛すると信じられ,契約の櫃には黄金のケルビムが配置されていた。アッシリアの神殿を守護した,人面,雄牛の身体,ライオンの尾,翼をもったケルブ (ケラブ) が取入れられたものと思われる。キリスト教 (特にカトリック) では智天使と訳し,天使の一つとしている。美術では頭と翼だけの幼児に描かれる。

(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典) コトバンク 2018年6月17日21時13分

ケルビムとは天使階級第2位の天使ということがわかりました。

ちょうど良いつぶやきがありましたのでお借りしました。人面,雄牛の身体,ライオンの尾,翼をもったケルブ (ケラブ) ということで、上記のような姿になりますが、アークの上に乗っかってる姿とは別物のようです。美術では 頭と翼だけの幼児だそうで、体は無いのかな?

聖フランシスコ・ザビエルの有名な絵画ですが、右上に浮かんでいるのがそうでしょうか?

羽衣伝説について

天使は鳥 天女の羽衣は羽

私は、天使という概念を持たない日本人が天使としてイメージをしたものが鳥なのではないかと思っていました。これは単なる思い込みで、誰かの本を読んだとか、どこかのサイトで見たとかではありません。ただ、単純にそういうことを思いついただけの話です。 

羽衣伝説というものが日本各地にありますが、こんなストーリーです。

1.水源地(湖水)に白鳥が降りて水浴びし、人間の女性(以下天女)の姿を現す。

2.天女が水浴びをしている間に、天女の美しさに心を奪われたその様子を覗き見る存在(男、老人)が、天女を天に帰すまいとして、その衣服(羽衣)を隠してしまう。

3.1人の天女が飛びあがれなくなる(天に帰れなくなる)

ここから近江型と丹後型でわかれる。

近江型(一般型)

1.天に帰れなくなった天女は男と結婚し子供を残す(幸をもたらす)。

2.天女は羽衣を見つけて天上へ戻る

3.後日談(後述)

丹後型

1.天に帰れなくなった天女は老夫婦の子として引き取られる

2.天女は酒造りにたけ、老夫婦は裕福となる

3.老夫婦は自分の子ではないと言って追い出す

4.天女はさまよった末ある地に留まる(トヨウケビメ)

羽衣伝説(2018年5月11日 (日) 20:46 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

羽衣伝説に登場する天女は白鳥だとされています。そうすると、天女が無くした羽衣は白鳥の羽ということになります。羽衣をなくした天女はただの人間のようです。羽衣を身に着けた天女は天上に帰ります。神になるわけです。羽衣というのは衣服ではなく、現在でいうショールのようなものです。つまり羽衣は天使の羽根から由来するもののように思うのです。 

余談ですが、羽衣伝説の近江型の後日談が気になりますが、複雑になりすぎるのでここでは省略します。

あらたえ(麁服)について

皇太子が天皇として即位される時、あらたえ(麁服)という麻の織物を羽織られると聞きます。正確にはあらたえを神にお供えするのだそうですが、あらたえによって、皇太子は神たる天皇になるわけです。天女の羽衣とルーツが重なるような気がします。 

あらたえも衣服のイメージがありますが、実際は麻の反物であることはあまり知られていません。

丹後国風土記の羽衣伝説

丹後の国とは昔の律令制下の行政区で、現在の京都北部から島根県あたりになると思います。山陰地方ですね。さきほど出てきた羽衣伝説のお話ですが、お話の後半部が近江型と丹後型に別れるというのが有りました。それで、丹後型の結末で、天女がトヨウケビメとして祭られるようになるというのです。 

丹後国風土記の一文です。

「丹後の国の風土記に曰く、丹後国丹波の郡。郡家の西北の隅の方に比治の里あり。此の里の比治山の頂きに井あり。其の名を真奈井と云ふ。今はすでに沼と成れり。此の井に天女八人降りて来て水浴[みかはあ]みき…」

真奈井という湧き水の出る池のようなものでしょうか、その真奈井に八人の天女が舞い降りて水浴をしていたのです。そこに和奈佐(わなさ)という名の老夫婦が現れて、一人の天女の羽衣を隠してしまいます。天女は天に帰っていくのですが、羽衣を隠された一人の天女は天に帰ることができません。天に帰れなくなった天女は老夫婦の勧めで老夫婦の娘となり10年を暮らします。 

娘となった天女は一杯飲めば万病に効くという酒造りや、機織などを教え、老夫婦の家は裕福になるのですが、何故か娘となった天女を老夫婦は追い出します。嘆き悲しんだ天女は放浪の末、船木の里に落ち着きます。天女は村びとたちによって豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)として祭られます。 

丹後型の結末はもう一つあって、七夕の原型となった物語のようですが、今回はパス。 

概要だけ見れば酷い話ですね。老夫婦に拉致監禁された天女が、持っていた技術を全て取り上げられて、得るものがなくなれば追い出してしまうという、鬼のような老夫婦です。 

ちなみに、この和奈佐(わなさ)という名の老夫婦は阿波国の人だそうです。正確には阿波国から来た海人族とかかわりがあるとのこと。出雲国風土記に書いてあるそうですが、確認はしていません。要確認。

豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)は豊受大神(とようけのおおかみ)のことで、オオゲツヒメとは同神かと思われます。

追記

トヨウケはオオゲツヒメの死後、アマテラスになったと考えています。オオゲツヒメはスサノオに殺されました。この事件が天岩戸隠れ真相です。天岩戸が開かれ、トヨウケがアマテラスとして再登場します。(妄想ですね)

乙子狭姫(おとごさひめ)伝説

これは、島根県石見地方に伝わる伝説です。乙子狭姫はチビ姫とも呼ばれる小さな姫で雁の背中にも乗れるほどです。 

太古の昔、赤雁に乗って穀物の種を伝えた狭姫という女神がいた。狭姫の母神はオオゲツヒメといい、身体のどこからでも食物を出すことができた。あるとき、心の良くない神がオオゲツヒメの身体にはどんな仕掛けがあるのかと面白半分にヒメを斬ってしまった。

 息も絶え絶えなオオゲツヒメは狭姫を呼び、「お前は末っ子で身体も小さい。形見をやるから安国へ行って暮らすがよい」と言って息を引き取った。と、見る見るうちにオオゲツヒメの遺体から五穀の種が芽生えた。狭姫は種を手にすると、そこにやって来た赤雁の背に乗って旅だった。

 海を渡って疲れた赤雁が高島(現益田市)で休もうとしたところ、大山祇(オオヤマツミ)の使いの鷹が出てきて「我は肉を喰らう故、五穀の種なぞいらん」と狭姫を追い払った。続いて須津(現浜田市三隅町)の大島で休もうとしたところ鷲が出てきて同じように追い払った。

 しかたなく力を振り絞った狭姫と赤雁は鎌手大浜(現益田市)の亀島で一休みして、そこから赤雁(現益田市)の天道山に降り立った。更に比礼振山(現益田市)まで進むと、周囲に種の里を開いた。神も人も喜び、狭姫を種姫と呼んであがめた。

 乙子狭姫 (2018年6月18日 (月) 20:37 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

心のよくない神というのは朝鮮から来た神のようです。スサノオは日本書紀において、一旦朝鮮に降り立ってから日本にやってきます。高天原を追放されるほど悪行を重ねたスサノオですから、心のよくない神はスサノオと重なります。 

物語を簡単にすると、オオゲツヒメより五穀の種子を賜った乙子狭姫は島根県に降り立ち、農耕の神となった。というお話です。

阿波人が舞い降りた

丹後の国の羽衣伝説も乙子狭姫(おとごさひめ)伝説も阿波の国が関係しています。阿波の国の人々が丹後地方に入植して農耕や技術を広めたということでしょう。オオゲツヒメがスサノオによって殺された場所はどこか調べたのですが、わかりませんでした。 

オオゲツヒメは粟の国の姫ですから、阿波の国で殺されたと考えられます。スサノオが現れ、災いをおこすまで、阿波の国は平和な姫の国だったのでしょう。争いのない時代は女性の時代でもあります。スサノオがオオゲツヒメを殺したことが象徴するものは、阿波の国における争いのない時代の終焉と考えられます。乙子狭姫たちは争いの地、阿波の国から逃れ、丹後地方まで流れていったのかも知れませんね。 

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